私生活

一人の人間の私生活。

夏ってだけでキラキラしてた

大学生のとき遠距離で付き合っていた恋人がいた。

その人が夏休みを使って私の部屋に遊びに来たことがある。私のせまいワンルームで何日間かを2人で過ごすことに息苦しさを感じたのをずっと覚えている。

私はたぶん誰かと一緒に暮らすことはできない、という気持ちにこの数日でなった。

 

8月の初めに遠方に住むセフレに会いに行った。

金曜日の夜に彼の家に行って土曜日の夕方までを一緒に過ごした。

土曜日はお昼ごはんを一緒に食べて、そのあと私の希望で期間限定のイベントに行った。「おもしろかったね」と彼は言って、私はほっとした。

荷物を取りに彼の家に戻って、窓を開けると夏なのに風通りがよくて気持ちよかった。外を歩いて火照った体を冷ます。

日が傾いてきてもう少しでさよならの時間だ、という気配を感じたとき急にとてつもなく寂しくなった。今まで何回か会ってきたけれど別れ際に悲しくなったことは一度もなかったのに。彼はいつだって「またね」と言ってくれる。

 

セフレの家でセフレの服に触れながら、遠距離だった元恋人が帰る日のことを思い出した。「もうちょっといて」と相手に予定があることを知りながら私はゴネた。困った顔で「また会おうね」となだめられて、渋々見送った。

元恋人のことをとても好きだった。

 

セフレが「行きますか」と言った。もうちょっと、と言いたい私は軽く返事をして荷物を持った。忘れ物がないか確認した。この家に私の物は置いて帰れない。前日の夜彼は使いかけの化粧落としを貸してくれた。

 

突然連絡がなくなっても不思議ではない関係だと分かっている。会うたびに今回が最後かもしれないと強く思っている。彼は私に恋愛感情なんてないし、セックスが一番楽しい時間だし、私も同じだと思われているから成立している。必要なのは快楽と適度な軽さのだけのはず。

 

改札の前で彼はいつも通り「またね」と言ってくれる。私はいつも大袈裟に手を振ったり誤魔化してそれに返事をすることはなかったけど初めて「またね」と返した。また会いたい、まだ一緒にいたい。

改札を通って振り返えるとセフレはもう私のことを忘れたような顔をして歩きだしていた。